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ナチュラル スカイ ネットワーク TOP > ソーラープレーンチャレンジ記


ソーラープレーンでアメリカ大陸を横断した番場健司さんによる

 ソーラープレーン チャレンジ記 



ソーラーエネルギーで翔ぶ − タンポポ号 アメリカ大陸横断顛末記 −


20年前になります、ハンググライディングというスポーツに出会いました。このスポーツは耳で大気の音を聞いて翔ぶ、とてもナチュラルなスポーツです。足が地面から離れるときには、それまでに味わったことのない「自由」を感じることができます。「高いところから翔び、ゆっくりと降りてゆく」というイメージを持たれますが、上昇気流にうまく乗れば3000m以上の高度まで押し上げられ数時間、100km以上の距離を翔ぶことも可能です。「どうしてそんことができるの?」と思われる方も多いことでしょう。「サーマル」(熱上昇風)とい言葉をご存知でしょうか? これは、太陽光により暖められた地表面の空気(気団)が何かのきっかけで地面から離れ、その暖かい気団が上昇してゆく自然現象です。乾燥した地域で夜に冷え込み、朝に強い太陽光が照りつけるような条件の場所ほど、この熱上昇風の現象は起こりやすくなります。南アフリカではサーマルが強すぎて低い高度ではセスナクラスの航空機の飛行にも支障をきたすことがあります。このサーマルに入って上昇をして、高さを距離に変えるのがグライダーの飛行テクニックです。サーマルが発生するのも太陽のエネルギーが形を変えたもの、すべては自然条件とパイロットのスキル次第ということです。

1985年、ハンググライディングにのめり込んでいくうちに、その頃の世界選手権の常勝国であるイギリスに興味を持ち始めました。「高い山もなく湿度が高いことを考えるとサーマルも強くはないだろうし、条件は日本と変わらないはずなのに何故だろう?」そう考えた私はイギリスに行く決心をしました。しかし、お金もない学生ですのでAirwave Gliders社というメーカーに職を見つけて働きながら翔ぶ生活が始まります。ここで一人のアメリカ人パイロット兼デザイナーであるエリック・レイモンドに出会います。次第に彼が進めていたグライダーの開発を手伝うようになります。そのときに良く語り合ったのが「排気ガスも排気音もなく、平坦な滑走路から離陸して自由に翔ぶ航空機を手に入れたい。」という夢、そのとき選択できたエネルギー源が唯一「ソーラーエネルギー」だったわけです。しかし、その頃の太陽電池の性能を考えると文字通り夢のような話ではありました。

当時、シリコン結晶系の太陽電池は性能面でも進んできていました。しかし、この素材では厚く、また航空機の翼形に合わせてスムースに湾曲してはくれません。航空機が飛び立つときに必要な浮力はこのスムースな翼形に全てがかかっています。航空機の翼の上にシリコン結晶系の太陽電池を張り付けても十分な浮力が得られないのです。また、アモルファス系のものは、薄く自由に曲がるものがまだありませんでしたし、エネルギー変換効率もシリコン結晶系と比べると1/4 程度、計算機や時計などの極小電力で作動するものにしか使えない電力源でした。実験室の変換効率のチャンピオン・データでさえシリコン結晶系で10%、アモルファス系で2〜3%程度でしたから、現在の市販の太陽電池の1/2程度の性能でした。しかし、アモルファス系の太陽電池は低コストで大量生産が可能であるというメリットも持ち合わせています。

ソーラープレーンの開発には着手できないままに、時間が過ぎてゆきました。

その後、私は日本に戻り就職します。そんな1987年のある日、不意にエリックからの電話が入り会うことになりました。私のビジネス・スーツ姿は、彼の目にはよほど滑稽に映ったのでしょう。ひとしきり笑った後に「そろそろ性能の良い太陽電池が開発され始めたので、カリフォルニアでソーラープレーンの開発を始めないか。と誘われます。彼の申し出を快諾した私は、働いていた会社を退職してレークエルシノアに移り住みソーラープレーンの開発に着手します。目標は航空機の完成後にその実用性を示すために、西海岸から東海岸へ向けてのアメリカ大陸横断フライトです。しかし、「翔ぶかどうかわからない」ものへ資金の提供者が居るわけもなく、ガレージの片隅でお金になる仕事が終わった後の余った時間を使ってのスタートでした。

我々が微弱な電力源であるアモルファス系の太陽電池で翔ぶ航空機のために選んだ翼形は、人力飛行機(マンパワー・エアープレーン)のものです。理論的には人力(1馬力)程度で、平坦な滑走路からでも翔び立てます。しかし、アメリカ大陸を横断する程の強度はないので、浮力を得るのに必要な馬力は増えてしまいますが、航続距離を延ばせるようにデザインし直してゆきました。それにしても、一機とはいえ飛行機を作るのは膨大な仕事量です。何せほとんどの部品は手作り。ファイバーグラスやカーボン、ケプラーといった素材を加工して作ってゆきます。約2年の歳月を経てグライダーとして完成、車により曳航して高度が取れたところでリリースして性能を判断するテストを繰り返しました。次に、プロペラ、モーターとバッテリーを取り付けて電動飛行機として飛ばすことで、どのくらいの馬力が必要なのかの判断をしてゆきます。翼の上に太陽電池を張ることで性能が落ちることも加味しなければなりません。並行して探していた太陽電池メーカーですが、アモルファス系の太陽電池ではリーディングカンパニーである三洋電機がスポンサーを快諾してくれました。そればかりか、これまでにはない薄く軽い高性能(変換効率5%程度)のアモルファス系の太陽電池を開発、ソーラーシステム設置にはのべ5人以上のエンジニアを派遣してくれました。

航空機のバランス、太陽電池で作った電気を最大限どうプロペラに伝えるのか、灼熱の砂漠の飛行場で、気が遠くなるほどのテストフライトを重ねました。それが終わると深夜までデザインの見直しと製作という日々です。特に軽量化のためには細心の注意が払われました。ナットを締めた後のネジ山の余りは全て削られました。結局、翼や胴体の上約8平方メートルの面積に太陽電池を貼り付け最大300Wの出力が得られました。この電気を主翼や尾翼の中に装着されたバッテリーに充電、バッテリーからの電気でモーターを回転させプロペラを駆動するシステムです。かくして全長7m、翼幅17.5mのソーラープレーンは完成、機体の重量は90kgという軽さです。使用した太陽電池は特注品とはいえ、バッテリーは三洋電機社製のニッカドDサイズ(単1サイズ)、民生用として導入できるシステムでこの航空機を作り上げたことにも意義があると思います。

 この航空機の開発に費やした2年間半に実にいろいろな経験ができました。空の上からもカリフォルニアの大自然を満喫しました。その一方で、都市部のロスアンジェルスの大気汚染には愕然としました。改めてこのソーラープレーンでアメリカ大陸横断フライトを成功させてソーラーエネルギーの実用性を示すことに意を強くしました。完成したソーラープレーンは「タンポポ号」と名づけました。太陽の光をいっぱいに受けて、結実した種子が次の世代を残すために翔んでいくイメージに重ね合わせたからです。そして当初の目論見であった「アメリカ大陸横断フライト」にチャレンジします。西海岸のカリフォルニアから翔び、最終目的地は1903年にライト兄弟がはじめて動力機付きの飛行機での飛行に成功したノースカロライナ州キティーホーク、その名も「ファーストフライト空港」です。

 1990年7月16日、パイロットのエリックレイモンドの操縦でようやくカリフォルニア州デザートセンターの空港をスタート、その日は7時間35分のフライトで332kmを翔び最高高度も2750mを記録します。その翌日も順調に飛行を続けましたが、3日目にニューメキシコ州ローズバーグ空港からの離陸のときに強い横風を受けて空港脇の木に主翼がクラッシュ、カリフォルニアに戻り補修作業が必要となりました。

 8月2日に改めてキティーホークに向けてのフライトを再開、折りしも同日未明にイラク軍がクウェートに侵攻したニュースが世界を駆け巡ります。その後は補修の甲斐もあり順調に飛行を続けます。11日、テキサス州リトルフィールド空港ではちょうどモーターグライダーのUSナショナルズが開催されていました。大会本部の好意でウィンドダミー(風見役)として十数機が左右によけて滑走路を空けてくれ、拍手の中を離陸してゆきます。その日は395kmを翔び、これまでの最長飛行距離を更新しました。

 その翌日にはオクラハマ州モーアランド市営空港に着陸するアプローチをしました。飛行場の管制塔に着陸の許可をもらいます。上から見ても滑走路がひび割れて補修されていないさびれた飛行場です。
「ずいぶんと寂しい飛行場ですね。」
無事に着陸した後に、飛行場の管理をしている老人に話しかけてみると、
「このあたりも昔はオイルが採れて、人がいっぱい集まって頻繁に飛行機も離発着していたさ。今は若い者もいなくなってしまった…。」
そういえば、近くには使わないまま取り残されたオイルの採掘機が目立ちます。
「イラクの侵攻でまたオイルを掘り始めるんじゃないの?」
米国のガソリンの値段は日本の1/3以下ですが、我々が東に向かう1日ごとに、ガソリンスタンドの表示価格が高騰している時期、オイルクライシスを危惧してのことです。
「オイルはなくなった訳じゃないんだ。また、そのときにはまた掘り始めるさ。でも、突然ソーラーパワーの飛行機が翔んで来る時代だから、もうオイルはいらないのかもしれないね。」

 ミシシッピー川が近づくにつれて、思うように飛行距離が延びない日が続きました。通常なら西から東に向かって流れる偏西風に乗って順調に飛行距離を稼げる目論見でしたが、予想に反して「タンポポ号」のような軽い機体に取っては不利な向かい風の日が多くなってきました。
「いつもはこんな天候じゃないんだけどね…。」
ローカル・パイロットに聞いてもこんな返事が返ってくる異常気象でした。日本でも記録的な猛暑が連日続いていることがニュースで報じられている時期です。

 8月25日にはケンタッキー州フランクフォート市営空港から離陸。目の前には、高い樹木が茂る山々がだらだらと連なるアパラチア山脈が立ちはだかります。慎重にフライトプランを練り、3日間のフライトで山脈を越えてヴァージニア州に入りました。その後は4時間のフライトで30km余りしか翔べないような歯がゆい日もありましたが、着実にキティホークは近づいてきました。

 9月3日、ノースカロライナ州カリタック市営空港から離陸、約40km先のファーストフライト空港を目指します。時折、小雨も降り低気圧に伴う強風が吹き始めました。見る見る内に天候は悪化、大事を取ってファーストフライト空港への着陸を諦め、内海越えを避けてそのまま海岸線に出て、キティホークから15km北のゴルフ場造成地に着陸しました。改めて東の方向を見ると、そこには大西洋が広がっています。アメリカ大陸横断、空の旅は終わりタンポポ号はようやく翼を休めます。

 毎日、太陽ばかりを気にする何とも贅沢な「旅」でした。累計飛行距離4062km、フライト日数24日間、実質飛行時間125時間1分。我々のタンポポ号がソーラーエネルギーだけを頼りにアメリカ大陸を西海岸から東海岸へ翔んだ数値です。現在のジェット旅客機ならば5時間とかからない距離でもあります。アメリカのマスコミは大々的に取り上げ、また日本でも特別番組を放映、ソーラーエネルギー実用の実証とソーラープレーンの可能性を示すいうプロジェクトの当初の目的は満足できるかたちで達成されました。

 あれから10年以上の歳月が流れました。昨今の状況はアメリカ軍のアフガニスタン攻撃と、タンポポ号によるアメリカ大陸横断フライト当時の湾岸戦争開始を彷彿させるものがあります。現在、私は「南極チャレンジ21」(NPO申請中)(http://www.jwave.com/canta21)というプロジェクトを進めています。HPにはソーラープレーンの画像や情報も掲載してありますので、ご興味がありましたらご覧ください。このプロジェクトは次世代エネルギー変換技術として注目されている「燃料電池」を使って南極大陸を横断することで次世代の人間と環境が共存できるエネルギー・システムを示し、循環型社会のあり方を提案するというものです。私がこの技術に興味を持ったのは、「持続と再生が可能なエネルギー」という点です。その仕組みは、水素と酸素が化学反応を起こし電気を作るというもので、水の電気分解の逆の反応ということになります。水素を手に入れれば、排出物は水だけの環境に配慮した発電システムです。原料となる水素はメタノールや天然ガスを改質して作られる他にも、太陽電池をはじめとする風力などの自然エネルギーにより水の電気分解をすることで入手できます。一般的に電力は貯めておくことが出来ませんが、水素という形ならば貯めておくことが可能です。自然エネルギーのデメリットは自然エネルギーであるがゆえに、太陽が照る、風が吹くといった自然条件に左右される点にあります。しかし、自然エネルギーで水素を作り貯蔵して、必要なときに燃料電池で電気を取り出すことができます。燃料電池をキーテクノロジーとしたエネルギー体系で自然エネルギーのデメリットも克服できる、特に太陽電池の可能性に今一度フォーカスが向けられるのです。

 もちろんこの技術は「乗り物の動力源」だけに限りません。我々の通常の生活で使う電力として応用することで地域分散型発電による循環型社会の構築ができます。自宅や地域に発電システムを設置できることから、その地域に合ったシステムが構築できます。従来の火力発電を中心とした「大規模集中型発電方式」への依存から脱却でき、原子力の呪縛からも解き放たれます。政策的に押し付けられるエネルギー体系で我々の生活が脅かされることを考え合わせても、消費者が自分の意識でエネルギーを選択、エネルギーシフトを進める時代がきています。このエネルギーのデモクラシーこそが、次世代の地球環境に責任を持つという意味からも人間の「自律」につながるのではないでしょうか。

 10年以上経った今でもタンポポ号のフライトを覚えていただいている方にお会いすることがあります。実際に行動したことで事実として記憶に残り、エネルギー源として認知してもらえる機会を作られたことを嬉しく思わずにはいられません。エネルギーの変革は我々の生活に密着していることからも、最も身近で大切な文明改革であると思います。高度経済成長の時代を享受し、その後の世界規模での環境問題を省みれば、これまでの化石燃料や原子力に頼ったエネルギー体系から脱却すべき過渡期にさしかかっているのは明白です。現在、日本のエネルギー生産量に占める太陽エネルギーをはじめとする自然エネルギーの割合はわずか約1.5%、「この数値をドラスチックに2桁にしよう!」などと大それたことは言いませんが、「個人ができる身近なところからはじめて、せめて近い将来に5%になってくれれば!」と期待しています。
 
 我々の生活の一部に太陽電池製品を取り入れることが、化石燃料・原子力へのアンチテーゼとなることを願いつつ。今日も広くあまねく輝く太陽に敬意を表して。

 

● 番場健司さん ●
1985年に渡英、Airwave Gliders社にて就業しながら航空理論・技術を学ぶ。後に、太陽光を動力とするソーラープレーン『タンポポ号』の開発・制作に誘われ渡米、1990年北米大陸横断飛行の成功後に帰国。その後もソーラーエネルギーを中心にエネルギー技術に取り組む。出版社勤務を経て、2000年4月より「大場満郎と北磁極をめざす冒険ウォーク2000」に参加、650キロを徒歩により北極圏・北磁極到達に成功。現在は、(有)テラリウム代表取締役を務める傍ら「南極チャレンジ21」実行リーダー。


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